1.トランスポゾンによるゲノム再編成・ゲノム進化の研究

  生物の本質の1つは「進化すること」です。そして進化は、ゲノムが変化しないことには起こりません。すなわち、ゲノムが変化するからこそ、生物は進化できるのです。進化を方向付けるゲノムの変化の仕方は多様ですが、大規模な変化の方がゲノム情報に与える影響も大きいことは容易に想像できます。大規模なゲノム改変に大きく寄与するのがトランスポゾン(動く遺伝子)です。トランスポゾンはあらゆる生物のゲノムに存在するDNA配列であり、転移により様々なDNA組換え反応を引き起こす(図1)ことにより、ゲノム情報を大規模に改変し、時には新しい能力の獲得をもたらす生物ゲノムの進化の原動力の1つです。当研究室では、大腸菌をはじめとするバクテリアのDNA型トランスポゾンの研究を行っています。

​図1 DNA型トランスポゾンの転移の結果起こる種々のDNA組換え反応

(A)トランスポゾンの振る舞いを変えるタンパク質IEEの研究(図2)

  バクテリアのトランスポゾンは、非複製型因子であっても、転移の結果、トランスポゾンが元の位置から消えること(トランスポゾンのexcision[切り出し]と呼びます)は稀です。(これに対して、真核生物のトランスポゾンは、転移の後の非相同末端結合(NHEJ)により切り出しが起こります。)しかしながら、病原性大腸菌では、例外的にトランスポゾンの切り出しが高効率で起こり、その原因因子としてIEEが同定されました。IEEは、①トランスポゾンの切り出しの他に、②トランスポゾンの隣に外来のDNAを取り込む、③反復配列を正確に欠失させる、という、これまでに報告がないユニークなDNA組換え反応を引き起こします。IEEは、トランスポゾンを巻き込みながら、ゲノム配列を大規模に改変し、ゲノム進化を大幅に加速させるタンパク質です。IEEが引き起こす組換え反応の機構を遺伝学的手法と生化学的手法を駆使して追求しています。また、IEEは染色体DNAの複製フォークの再構築に関わるPriAタンパク質と相互作用し、その結果として、DNA複製を阻害することもわかりました。どんな機構でDNA複製を阻害するのか、その作用の生物学的な意義は何か、という点にも注目して解析を進めています。

​図2 IEEが引き起こす多彩な現象

(B)トランスポゾンの転移に必要な宿主因子の解析

  トランスポゾンは自身がコードするトランスポゼースによって転移するので、その意味では自律的な因子ですが、転移に自らのトランスポゼース以外に宿主の特定のタンパク質(宿主因子)を必要とするものがあります。トランスポゾンはあらゆる生物に存在しますが、宿主因子は、そのトランスポゾンの守備範囲を規定する因子と解釈することができ、トランスポゾンの進化を考える上でも興味深い視点を与えてくれます。どのような機構で、その宿主因子がトランスポゾンの転移を支えているのかについて解析しています。

(C)トランスポゼースが引き起こす欠失反応の解析

  トランスポゼースはトランスポゾンの転移を引き起こす酵素ですが、トランスポゾンを含む領域を欠失させる反応を誘発することを見出しました。この反応は、転移とは異なる様式でゲノム改変を招くものであり、またこの反応には、組換え部位近くの転写が影響を及ぼしていることが分かってきました。この反応の分子機構の解明を目指します。

This site was designed with the
.com
website builder. Create your website today.
Start Now